東北乗り鉄201316.BRTまとめ戻る

 大船渡線BRTと気仙沼線BRTに乗ってきて、いろいろ感じたり思ったことがある。ここでBRTと今後の復旧について考えてみた。なお、これから記述する事は個人的な考えや想像であり、JR東日本や地元自治体等の公式見解ではないことをあらかじめ断っておく。また、主義主張を押し通すものでは無いので、考え方の一つとして捉えてほしい

16−1.現状

 BRTといってもバス専用道が少なく、ほとんどが一般道路である。そのため、定時運行でないことが多いようだ。今回乗車した全ての便で5分程度の遅れが発生していた。しかし、一般道路で特に渋滞は発生していなかった。平日朝夕のラッシュ時の様子は見ていないのでわからないが、もっとひどい遅れになっているのかもしれない。
 バス専用道では元踏切の交差点で減速や信号待ちがあり、遅れる原因の一つであると考えられる。

 運転本数については鉄道時代よりも多くなり、利便性が高くなっている。気仙沼線BRTの気仙沼〜本吉では、ほぼ30分間隔になっていて利用しやすい。なお、本吉〜柳津では、ほぼ1時間間隔と半減する。さらに、鉄道で運転されている柳津〜前谷地では2時間以上空くこともある。

 運賃はJR東日本の鉄道路線(地方交通線)と同じだ。ただし、鉄道区間との連続運賃では無く、BRT運賃と鉄道運賃の合算(一部区間では100円割引)になる。単なるバス転換では運賃の値上げが予想されるため、それに比べれば利用者負担が増えていない

 1便あたりの輸送力は鉄道時代よりかなり少ない。しかし、今回見た限りでは席が全て埋まることはなかった。(平日朝夕のラッシュ時はどの程度かわからない。)

16−2.BRT化を進める事について

 地元自治体はJR東日本へ鉄道での復旧を求めており、BRTはあくまでも仮復旧という扱いである。しかし、残った線路を剥がしてバス専用道にしている現状は、鉄道での復旧が遠ざかるようにも見える。また、JR東日本がBRTへ積極的に投資(バス専用道化、BRT駅舎の建設、新車のハイブリッドバス導入)しているため、鉄道での復旧に否定的であると感じられる。
 実際、JR東日本がどう考えているかはわからないが、赤字ローカル線の復旧費用と運行コストを考えたら鉄道よりはBRTがいいと考えるのは自然だ。しかし、鉄道での復旧を目指すとしても、仮復旧としてのBRT化は避けて通れないのではないだろうか?
 津波で橋梁や築堤が流された区間は一般道路を利用し、線路が残った部分をバス専用道化するのは、鉄道復旧から見れば矛盾しているように見える。しかし、いくら線路が残っていても、前後の区間で分断されていれば列車を走らせることが出来ない。それだったら、少しでも早く地域交通を確保するためにBRT化するのは最善だと思う。そのために、どんどんバス専用道化を進めて利便性(定時運行)を高めるべきだ。そして、橋梁や築堤が復旧できたところで鉄道に戻せばいい。
 なお、定時運行の確保のためには、一般道路との交差点は全てバス専用道を優先にすることも必要だ。

16−3.鉄道の復旧にこだわるべきか?

 JR東日本が運行するBRTは、被災前の鉄道より次のようなメリットがある。利用者から見れば、鉄道と同等の運賃が適用され、鉄道時代より運行本数が増えて便利になっている。事業者から見れば、鉄道より少ないコストで、運行や保守が行える。BRTはWin-Winの関係なのだ。
 また、仮にJR東日本が鉄道路線を廃止してバス転換した場合とBRTを比べてもメリットがある。鉄道と同等の運賃が継続する。JR線として路線図や時刻表に残る。みどりの窓口で鉄道駅からBRT駅までの乗車券も買える。JR東日本のフリー乗車券等も使える。つまり、実体はバスだが、営業上は鉄道なのだ。(鉄道代行の仮復旧だから当然だが。)ここでは、営業上は鉄道として運行するBRTを「バス方式の準鉄道」と定義したい。
 よく、鉄道が廃止になると町が寂れると言われる。駅という町のシンボルが消えて人の集まるところがなくなる。また、地図から線路が消えて旅行者が訪れる機会が減るからだ。しかし、「バス方式の準鉄道」なら駅は残り、地図から鉄道路線も消えないので、ただのバス転換より大きなメリットがある

 ところで、仮に鉄道で復旧したとして、BRTと同等の運行本数は維持できるか?大型の鉄道車両で同じ運行本数にすればコストアップ、輸送力過剰になる。だからといって、鉄道に戻すから(被災前並に)運転本数減らして不便するのでは意味がない。それならば鉄道での復旧を断念し、正式にBRT路線とする方が利用客にはメリットがある。
 ただし、仮に地元自治体がBRTでの復旧を正式に受け入れる場合は、現状と同様にJR東日本の路線として維持し、「バス方式の準鉄道」として運行する事を確約しなければならないだろう。もし、バス会社等に移管すれば「バス方式の準鉄道」が維持できなくなる。バス専用道はあるが、鉄道廃止によるバス転換と同じになってしまう。これは最低でも避ける必要があると思う。

 自分の考えとしては大船渡線(気仙沼〜盛)と気仙沼線(柳津〜気仙沼)は、全区間(線路から外れたところに新設された駅を除く)をバス専用道化して、正式にBRT路線(「バス方式の準鉄道」)とするのが利用者にとっても事業者にとってもいいと思う。

16−4.「バス方式の準鉄道」を正式にするために

 JR東日本が「バス方式の準鉄道」としてBRTを運行できるのは、あくまでも被災した鉄道の仮復旧(鉄道代行)だからだろう。鉄道は鉄道事業法、バスは道路運送法と準拠する法律が異なる。現状ではBRT路線として正式復旧すると、鉄道を廃止してバス(BRT)へ転換という形になってしまうかもしれない。そうなれば「バス方式の準鉄道」という考えが成り立たなくなってしまう。
 そこで、もし、BRTで正式復旧するのであれば、運行や車両はバスに準拠し、路線免許・旅客営業面は鉄道に準拠した新たなカテゴリーとして「バス方式の準鉄道」を国土交通省に法整備してもらいたい。そうすれば鉄道ネットワークの一部としてBRT路線を存在させることが出来る。また、地図上はBRTバス専用道を線路扱いとして、鉄道路線と駅の存在を維持出来るようにする。
 ただ、「バス方式の準鉄道」を法整備すると、全国にある赤字ローカル鉄道のBRT化が推進される恐れもある。災害で鉄道の運転が出来ない状態であればBRT化もやむを得ないだろう。問題は鉄道として運転出来ている路線の安易なBRT化だ。
 でも、無理に鉄道を続けたあげく廃止になってバス転換されるよりも、BRT化した方が地域交通としては良いだろう。しかし、旅情とかはなくなってしまう・・・だから、観光客の需要が見込めるのなら鉄道を維持し、地域交通だけが確保できれば良いのならBRT化するという判断が必要になる。路線の性質を見極めて安易なBRT化は避けなければならない。

16−5.鉄道での復旧をするとしたら

 BRTでの正式復旧が良いとは書いたが、やはり鉄道ファンとしては鉄道での復旧も考えてみたい。
 まず、上にも書いたように被災前の状態に戻しても意味がない。利用者にとっては不便になり、事業者にとってはコストアップになってしまう。そこで、鉄道にこだわるのならLRT(ライトレールトランジット)の導入を提案したい。
 低床路面電車タイプの車両にすればBRTと同等か、少し多いぐらいの輸送力になる。線路はバス専用道の上からレールを敷設してしまえば工事費も抑えられる。また、BRT用の駅が、ほぼそのまま利用できる。BRTとして整備した施設を無駄にしないで鉄道化する。
 車両はバッテリー充電式電車にすれば電化の必要がない。ただし、いくつかの駅に急速充電設備を設置する必要はある。これは烏山線に導入されたEV-E301系電車「ACCUM」の技術が生かせるだろう。
 鉄道にするならATSなどの保安装置が必要になる。BRTと同等の運転本数を確保し、BRTと同じように駅間の各所で行き違いをすると、閉塞区間を細かくする必要が出てくる。ATSでは軌道回路などの地上設備が多くなってしまうが、JR東日本が開発した無線式の信号システムATACSを必要最小限の機能に絞って導入すれば、信号機や軌道回路を設置しなくて済む。

 ベイサイドアリーナ駅のように鉄道区間(バス専用道)から外れたところに新設された駅や、志津川駅のように移転した駅は、鉄道で復旧すると通ることが出来ない。利用客がいないのなら廃止できるが、一度設置して利用客が出来てしまったら簡単には廃止できないだろう。簡単なのは最寄りの鉄道駅から接続するバスを運転することだ。通常の路線バスとして新設扱いにするか、「バス方式の準鉄道」(BRT)として支線扱いにする。可能ならば路面電車として一般道路に乗り入れてもいいだろう。
 BRT支線とするのなら、本線の一部を併用軌道にして乗り入れる(LRTとBRTが同じ場所を走る。)と乗り換えの不便が抑えられる。

 また、現在鉄道で運行している気仙沼線の前谷地〜柳津や大船渡線の一ノ関〜気仙沼へLRT車両が乗り入れれば、鉄道ネットワークを復活させることが出来る。ただし、そのためには低床ホームの設置や急速充電設備の設置を行う必要があるので、簡単では無い。

 まだまだ完全復旧が遠い大船渡線と気仙沼線だが、利用者、事業者、自治体、それぞれが納得できる形で早期復旧できるように願う。

15.気仙沼線BRT その4 出口